第1回「郡山ブランド野菜」試食商談会
日時:平成28年(2016年)3月2日(水)14:30~16:30
会場:日本調理技術専門学校(福島県郡山市)
珠玉の野菜を育て、消費者や料理人たちとの連携を深めながら食文化の創造を目指す「郡山ブランド野菜協議会」は、2016年3月2日、同市の「日本調理技術専門学校」の協力を得て、市内はもちろん県内各地の飲食店やホテル・旅館のシェフ、栄養士ら「食」に関わる人たちを招き「試食商談会」を開催した。
同協議会は、2003年「あおむしくらぶ」として活動を開始。郡山市の土地に合った野菜であること、そしておいしさと栄養価も確かな種類を選定して育て、1年に1品ずつ、ブランドとして打ち出す活動を続けている。郡山の土と気候と野菜を知り尽くした「目利き」の生産者たちである。
自分たちが育てた野菜を、地元の人たちにおいしく食べてもらえることで土地への誇りや愛着をもってほしい。そして郡山市の農業と農産物の価値を高め、さらに多くの人たちとのさまざまな連携を構築しながら、郡山ならではの食文化を創りたい――。
協議会が市場に出したブランド野菜は、2015年現在で12品目が揃い、着実にファンも増えている。
今回が第1回目となる「郡山ブランド野菜 試食商談会」は、同協会が「復興応援 キリン絆プロジェクト」農業支援事業の助成を受けて始められることとなった「郡山ブランド野菜による食文化創造プロジェクト」の最初の取り組みである。
生産者たちが、野菜の旬、畑のこと、これから栽培されていく野菜についてなどを来場者に直接説明し、野菜のおいしさを活かしてくれる料理人とコミュニケーションを深めるのが目的で、闊達に意見交換し合う中から食べ方や育て方などについて新しい発見やヒントを双方が見つけていこうという試みでもある。
会場には小さな八百屋のような陳列棚が設けられ、「御前人参(ごぜんにんじん)」「冬甘菜(ふゆかんな・キャベツ)」「めんげ芋(サツマイモ)」「あこや姫(かぶ)」など、郡山の冬の寒さの中で育ち、おいしさをたっぷりと蓄えたこの時季に収穫される7種類のブランド野菜と、さらにブランド野菜ではないが、協議会のメンバーが育てたたくさんの野菜がずらりと並べられた。
また、隣接するオープンキッチンでは、日本調理技術専門学校の先生方やスタッフが、素材の味を生かした試食料理11種類を用意。和洋中などのジャンル別、焼く・蒸す・煮込むといった調理方法によっておいしさを増した野菜を楽しむこともできたほか、訪れた料理人の方が、インスピレーションをその場で試してもらえるようにオープンキッチンを利用できたり、またスタッフに調理方法を指定して試食することもできた。
開会は午後2時30分。
会場には、市内はじめ県内から料理人の方々を中心に約70人が訪れた。
初めに郡山ブランド野菜協議会の会長である濱津洋一様から、開催にあたって挨拶があった。
「私たち農業者は、食材となる野菜を育てるのが仕事です。そして調理師をはじめ皆様のお仕事を経て、料理となり食となって、私たちの命は支えられているのだということを、3.11以降は特に強く感じております。私たちが育てた野菜が、郡山の皆様にかわいがられ、子どもたちもたくさん食べて大きくなっていってほしいと願っています。
ブランド野菜については『どこで売っているの?』『どうやって食べるのがおいしいの?』と尋ねられたりします。そういう情報交換をはじめ、広く皆様と交流することで、郡山においしい食の文化が創られていくことを願っています。」
また、キリンビールマーケティング株式会社 福島支社長 椎屋直孝氏より激励の挨拶が、郡山ブランド野菜協議会の鈴木光一副会長からは、協議会のこれまでの取り組みやこれからの活動方針などについて説明があった。
その間には、オープンキッチン前のテーブルに、日本調理技術専門学校の鹿野正道先生はじめスタッフの皆さんがつくった料理がどんどん並べられていく。
マイクを手にした鹿野先生は、一品ずつ説明し、そして「本日の商談会が、郡山ブランド野菜を、皆様にもっとお使いいただく契機になりますよう願っております」と挨拶。流れてくるおいしい匂いに、会場の雰囲気も和んだ。
挨拶が終わると、来場者である調理人の皆さんは、早速、興味ある野菜を手に取って生産者に質問したり、自分が以前に調理した方法を例に出したりしながら、語り合うなどしていた。
「スープに入れても煮くずれしないんですよね。」
「和食でも、洋風の味付けでも、芯の甘みがしっかりしている。」
「生食すると、他の品種より柔らかいのが分かります。」
また、購入先や出盛りの時期を教えてもらったり、それぞれの野菜の特徴や個性を尋ねたり、中には、真剣な顔でテーブルの料理を味わう人も。
そして、生産者たちからも
「根に近いほうが甘いんですよ。」
「さっと蒸して温野菜でいただくのが一番かなと思います。」
「これは少し辛味が強いので加熱するのがおすすめです。」といった説明やアピールがあり、実際に生の野菜にかじりつく人もいた。
生産者と調理人が、食べ方や調理の方法について直接話し合うという初めての機会。活発なやりとりの声が会場にあふれた。
「地元の郡山で、こんなにおいしい野菜が、しかもこんなにたくさんの種類が栽培されていたなんて。」という声もあった。
「『ブランド野菜』のことは知っていたけれど、ブランドじゃない野菜だって十分おいしい。」
「県外などから仕入れる野菜も多かったけれど、地元にこれだけたくさんあるなら、ぜひ地元の旬のものを使っていきたい。」
「『身土不二(しんどふじ)』という言葉、あらためて考えさせられますね。」
「身土不二」とは「身体と土は切り離せない(不二)」という意味。同様の意味で「三里四方のものを食べる」という言葉もある。いわば「地産地消」である。
また、「旬」とは、上旬、中旬・・・というように「10日間」のこと。出盛りともいい、海や山や畑の恵みがもっともおいしさを蓄える期間だ。
出盛りを迎えた地元の農産物を、フレッシュなうちに地元で消費する、地元で加工するということは、何よりもその土地で生きる身体にいい。そして、地域の産業や文化や暮らしの風景を守ることにも繋がっていく。
地元の野菜や果物を、家庭で、地元の飲食店で、あるいは給食でいただく。健康にも環境にも、地域の経済にとってもいい。それが地元愛となり、ひいては地域が元気になっていく。
郡山ブランド野菜協議会の食文化創造プロジェクトは、まさに地元愛を深め、強くしていくプロジェクトでもある。
《インタビュー点描》
中国料理 珍満 オーナーシェフ 小平 一男 様
郡山の土で育てられた野菜に出合えるということで、楽しみにしてきました。風評被害などで農家の皆さんも苦労されている中、地場の野菜をどんどん売り込むという思いに、私もお手伝いしたいと思います。
郡山ブランド野菜のことはもちろん知っていましたし、使っています。でも、きょうは、こんな食べ方もあったのか、そんな組み合わせもあるんだなと、とても勉強になりました。いちばんおいしい時期はいつですか? と直接聞くこともできた。お客様にもウンチクとして話せる。すごくいい企画だなと思いました。
《インタビュー点描》
リストランテ マルテッロ 村上 悟 様、廣美 様
以前は、ある農家さんから野菜を直接購入したりしていたのですが、震災のあと、その方はリタイヤされました。それで、きょうのこの会をキッカケに、また多くの方とお付き合いできたらと思います。このあと、気になる野菜をキッチンに持ち込んで、スタッフの方にちょっと調理してもらおうかなと思っています。
地元のレストランですから、地元の食材を使いたい。使えるのはうれしいし、楽しみです。生産者さんの思いをお客様にも伝えたいと思いますので、ますます皆で盛り上げていきたいですね。
《インタビュー点描》
桃見台小学校 学校給食調理師 新田 美千子 様、吉田 真理子 様
きょうはブランド野菜のことを知りたくてやって来ました。これまでも学校給食で「地元の野菜」は使っていましたが、ブランド野菜の中で使っていたのは「御前人参」ぐらいでしょうか。きょう初めて知った野菜もあります。
試食でいただいたお料理はどれもおいしかった。ニンジンの甘さもしっかり出てたし、お芋もタマネギも、素材の味が濃いと感じられました。
学校給食ですので、予算のことなども考えないといけませんが、でも、できればどんどん採り入れていきたいです。子どもたちも知らない野菜がいっぱいあると思いますよ。あのニンジンの甘さとか教えて上げたら、食べられない子はいなくなるかも?(笑)
《インタビュー点描》
キリンビールマーケティング株式会社 福島支社長 椎屋 直孝
きょうは存じ上げている料理人の皆さんに来ていただき、実際にどんなお料理になるのかなども伺えました。楽しく、そして意義のある「農と食の交流会」だったと感じました。
料理を作られる側の皆さんが、どんなふうに作っていこうか、ああしてみよう、こうしたいね、なんてすごくワクワクされている様子もうかがえました。
個人的には「蒸した野菜がおいしいよ」と教えていただいたので、早速、何種類か試してみたいと思います。また、試食でいただいたニンジンのジュースなどは、本当に甘みが深く、驚きました。多くのプロの方が、どんなおいしさを広げていってくださるのか、とても楽しみです。
《インタビュー点描》
郡山ブランド野菜協議会 会長 濱津 洋一 様
生産者と料理人の距離が近づけたと感じています。皆様からいただいた質問は、野菜が買える時期、買えるお店、お値段についてなどが多かったです。また「こんなにいっぱい野菜を作っていたの?」とおっしゃる方も。その辺の周知は私たちも課題と感じました。
きょうの交流会をキッカケに、お互いに知恵やアイデアを出し合えるようなお付き合いがスタートできたらいいなと思いますし、具体的にご購入いただくための方法やルートの拡充も急ぎたいと感じました。
うれしかったのは、すでにブランド野菜を使っていただいている料理人の方は、さすがにその野菜の個性をしっかりと捉えていたこと。どうすればおいしくなるか、その工夫と研究をされているんだなということも分かりました。今後は一般の消費者の方々ともこうした交流の機会を作って行けたらと思います。
《インタビュー点描》
日本調理技術専門学校 調理技術室 室長 赤間 毅 様
きょう用意させていただいた料理は、私と鹿野でメニューを考えました。ブランド野菜はもう何度も使わせていただいていましたが、きょうは野菜のおいしさをお伝えするイベントということで、あまり手を加えず、調理工程も単純な、野菜そのものの味や個性を知っていただけるような献立にしました。あまりいじるのはもったいない野菜です。
おいしいと言っていただいた中でも、特に「甘い」とおっしゃる方が多かったですね。冬野菜が中心でしたので、きょうは甘い野菜が多かったのもありますが。
ブランド野菜協議会さんとは、これからもご一緒させていただくことが多いと思います。郡山を盛り上げていくために、ご協力させていただく所存です。
《インタビュー点描》
郡山ブランド野菜協議会 副会長 鈴木 光一 様
きょうは多くの方にお越しいただいてほっとしています。
私は種苗店を経営しておりまして、たくさんある野菜の中から、個性や味や栄養価、そして土に合うものを選んで生産者の方に栽培品種を提案させていただいています。きょうは私たちがこの時季に作っている野菜をたくさん持って参りましたが、料理人の皆さんに興味を持っていただいたものも多くあって、おいしいね、いいねという評価をいただけました。
こういう野菜がほしいとおっしゃっていただくだけでなく、こちらからも、こういう野菜がありますよ、いかがですかと提案したい。きょうはお互いに響き合うことができたと感じています。今回は野菜の端境期でしたが、6月以降のいわゆるオンシーズンにも、またこういう機会を設けて、もっと多くの方と繋がりを持って、新しいお料理なども生まれていくことになったらとても楽しいことだと思いました。
2016.03.02「第1回郡山ブランド野菜試食商談会」おわり