郡山市/新たなワイン産地の人づくり産学官連携人材育成事業方針発表
郡山地域果実醸造研究会・郡山市
「新たなワイン産地の人づくり 産学官連携人材育成事業」事業方針発表
「復興応援 キリン絆プロジェクト」農業支援 贈呈式
日時:平成28年(2016年)8月24日(水)15:00~16:30
会場:郡山市役所西庁舎5階 5-1会議室
 
 郡山市は福島県の中央部に位置する人口約32万人のまちである。江戸時代には奥州街道の宿場町があったが、もともと水利が悪い丘陵地であり、安積原野と呼ばれる荒涼とした大地が広がるばかりであった。その安積原野が現在のような沃野へと変わっていったのは明治時代初頭のことだ。
 明治維新直後、職を失った元武士(士族)の反乱が各地で勃発する中、時の内務卿の大久保利通は、士族たちを救済して新しい産業を興して日本の近代化、いわゆる士族授産・殖産興業を推進するため、会津の猪苗代湖から奥羽山脈を越えて安積原野へ水路を導き、原野を開拓する大事業に着手した。近代史に有名な「安積開拓・安積疎水」である。
 明治10年、全国の旧9藩の士族らをはじめとする延べ85万人の労力が集められ、127kmに及ぶ水路工事は約3年の歳月をかけて完成。原野は最大時には約10,000ヘクタール以上の灌漑区域面積を得る広大や農業地域へと変貌した。
 疏水に設置された水力発電と、開墾による桑の植栽によって繊維産業が栄え、山辺には梨やリンゴ、桃といった果樹も植えられ、そして広大な水田からは良質な米と農産物が収穫される。一年中流れる清らかな水により、鯉の養殖も盛んになった。稲作も鯉の養殖も生産量が全国の市町村で1位を記録するほど豊かな食文化が生まれたのだ。
 平成28年(2016年)4月、郡山市発展の礎となった猪苗代湖・安積疎水・安積開拓を結ぶストーリーは、「未来を開いた『一本の水路』――大久保利通”最期の夢”と開拓者の軌跡 郡山・猪苗代――」として、文化庁が主催する日本遺産にも認定された。
 開拓者魂を今に受け継ぐ郡山市で、農産物の新たな産地形成と関連産業の構築に挑戦するプロジェクト「新たなワイン産地の人づくり 産学官連携人材育成事業」が始まっている。
 地元農業者と福島大学、そして郡山市の「産・学・官」が連携して、これまで郡山市で作られていなかった新しい果樹である「ワイン用品種のブドウ」を栽培し、加工から販売までを一連の事業として運営・構築していくための「人づくり」を進める計画だ。
 福島第一原子力発電所事故による風評被害も残る中、果樹王国ふくしまの復興と再生に力を尽くす農業者、行政、研究機関、支援団体など、いわば志を一つにする仲間たちが結集し、連携し合って行う新しい事業である。郡山市が今年度策定する「(仮称)郡山市6次産業化推進計画」の中、ブドウの栽培技術、ワイン・リキュールなどの醸造技術、そしてマーケティングといった新しい産地形成や経済システムの構築と維持に必要な人材を育成していくのがこの「新たなワイン産地の人づくり 産学官連携人材育成事業」である。
 
 平成28年(2016年)8月24日、郡山市役所において、本事業の事業方針発表会と、同事業に対する「復興応援 キリン絆プロジェクト」農業支援の贈呈式が行われた。
 会の開催に先立ち、同市熱海町の「磐梯熱海ファーム倶楽部」で、ワイン用品種のブドウを試験栽培する圃場の見学会も行われた。
 ここで4品種の試験栽培を行う「郡山地域果実醸造研究会」の佐藤勝善さんは「ことし(2016年)で4年目だけど昨年より出来がいい」と目を細める。「この事業を若い人たちにも注目してもらって、郡山市の農業をもっと盛り上げたい」と語る。
 
 「きっといいブドウと、いいワインを作るよ。新しいことに挑戦できるのが嬉しい。いつか市内の飲食店、温泉ホテル、結婚式場などで乾杯用として使ってもらえたらいいね(笑)」
 安積疎水は、米や野菜や果実の栽培、鯉の養殖といった産業従事者を育て上げ、地域の食文化を豊かにしてきた。
 偉業を成し遂げた先人たちのフロンティアスピリットは、今もこの大地に生きる人びとに受け継がれている。
 
1.「新たなワイン産地の人づくり 産学官連携人材育成事業」事業方針発表
《主催者挨拶》
郡山市長 品川 萬里(しながわ・まさと)
 キリングループ様には、昨年度(2015年度)は本市の「鯉に恋する郡山プロジェクト」に引き続きご支援を賜りますこと、厚く御礼を申し上げます。
 本日の新しいスタートも、郷土を流れる一本の水路・安積疎水の百数十年を経ての大きな稔りです。先人の努力に感謝するとともに、私たち行政も、果たすべきことを果たしてまいる所存です。ある報道では、日本の不景気が世界に蔓延するのではないかという予想もあるそうですが、しかし、我々はたくさんの知恵と力を持っています。その一例がこうした新しい挑戦です。よい意味でのジャパナイゼーションを巻き起こしてまいりたく、皆様のご協力をよろしくお願い申し上げます。
《来賓代表挨拶》
郡山市議会 議長 今村 剛司(いまむら・たけし)
 本日発表されます事業は、ワイン用ブドウの生産者等を対象に栽培や醸造技術、さらにはマーケティング等の研修を実施することによって産地形成や関連産業に必要な人材育成を目指していくものです。
 そんな中、キリングループ様による農業復興へのご支援はたいへん心強く、心から敬意と感謝を申し上げます。
 本市では、公益財団法人三菱商事復興支援財団様や果樹農家様との連携のもと実施されております「果樹農業6次化産業プロジェクト」により、果実の栽培から加工、販売までを一連のものとして運営する新たな事業モデルの構築を目指しているところです。地元の人材で継続的に実施できる事業を行っていくためには、農業をはじめプロジェクトに関わる各産業において「ヒト」を育成することが急務です。
 風評被害が残るなど、本市の農業環境は未だ厳しいものがありますが、そのような中で本事業が始動することは、本市果樹農家の復興と地域経済の活性化に向けた力強い後押しになるものです。
《来賓代表挨拶》
福島県 県中農林事務所長 沢田 吉男 様
このたび、郡山市と郡山地域果実醸造研究会が新たな事業に向けての人材育成に取り組まれますこと、6次化を推奨している県といたしましてもたいへんありがたく思います。本県は全国有数の果物産地ですが、地域農産物を利用したワインやリキュールなどの6次化商品の開発は、新たなブランドの創出と食を通じた本県の魅力発信につながるものです。新たな分野での商品開発は多様化した消費者ニーズに対応した販売が期待できますほか、地域の活性化に大いに寄与するものと考えます。
 皆様の情熱と高い志が郡山市と福島県の農業に新しい道を拓く原動力になるものと大いに期待しております。郡山市が地域に根ざしたワイン産地として新たな魅力を発信し、地産地消の推進や風評被害の払拭に大きな力となりますよう願っております。
《事業方針説明》
郡山地域果実醸造研究会 会長 橋本 壽一(はしもと・としかず)
 私どもの研究会は、本年(2016年)4月、志を同じくする9名の農家で立ち上げました。質の高いワインやリキュールなどの製造と、農家の所得向上を図るために、原料となる果実の生産及び醸造技術の向上に務めるとともに、製造される商品のブランド価値の向上を通じて農業の持続的な発展を図ることを目的としています。
 本年3月には、郡山市と三菱商事復興支援財団様が連携して進めています果樹農業6次産業化プロジェクトにより、本市逢瀬町に「福島逢瀬ワイナリー」がオープンしております。しかし、福島県内、郡山市域では原材料となるワイン用ブドウがほとんど生産されておらず、逢瀬ワイナリーのワインもまだ品薄です。私どもは郡山市で収穫されたブドウを使った郡山産のワインを夢見て、郡山になかったワイン用ブドウの生産を新たに開始しました。
 生食用ブドウの栽培経験はありますが、いささか勝手が違うと感じています。しかし、本日、キリン絆プロジェクトのご支援をいただけることとなり、メンバー一同、たいへん心強く感じています。
郡山市 農林部 演芸畜産振興課 課長補佐 箭内 勝則(やない・かつのり)
 郡山市の農業構造は水稲が主体となっています。樹園地は平成22年度(2010年度)では約140ヘクタールと農地全体の1.4%程度でした。品目別ではナシが33.1ヘクタール、リンゴが11.5ヘクタール、ブドウが15.5ヘクタールです。こうした農業構造を変えるべく、新たなワイン産地の形成を目指し、今回のプロジェクトに取り組むものであります。
 本市では国の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に基づき、郡山市総合戦略を作成しております。基本目標に掲げる「しごとみがきと産業の活性化」「農業の構造改革による成長産業化」の中で、6次産業化を重要施策と位置づけています。
 本市と三菱商事復興支援財団様が連携して推進する果樹農業6次産業化プロジェクトでは、ワイン用ブドウ栽培の初期経費を補助し、福島逢瀬ワイナリーに実証圃を設置し、さまざまなブドウの品種の栽培を試みたいと思っております。また ICT(情報通信技術)を活用し、気象データの集積や分析によって気象変化に対応したブドウの高品質化と国産材活用ワイン樽試作も行います。
 福島大学と郡山市が提携協定を結んで農業者の大学への派遣、公開講座の開催等を通じて復興リーダーを育てる「ふくしま未来 食・農教育プログラム」もスタートしているほか風評被害実態調査も実施しました。栽培量を増やすためには栽培技術の習得や、醸造から販売までの6次産業化を目指す醸造技術研修、マーケティング研修といった必要な研修も行ってまいります。
 そして、本市農産物の販売促進を図るブランディング研修としてのイベントの開催、先進地の事例視察、ワインづくりに興味がある福島大学の学生の実地研修受け入れも行います。
 事業主体は郡山地域果実醸造研究会と郡山市で、ワインに関する専門知識の習得には、日本で唯一のワイン産業総合コンサルタントであるマザーバインズ社に業務を委託して進めてまいります。
 現在、本市が導入しているメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、シャルドネの4品種です。順次栽培面積を拡大し、将来的には15ヘクタールの産地を形成したいと考えています。
2.「復興応援 キリン絆プロジェクト」農業支援 贈呈式
 
《主催者挨拶》
キリンビールマーケティング株式会社 福島支社長 橋本 岩男
 郡山市でブドウを栽培し、郡山市でワインを作り、3年後、4年後には販売される。素晴らしいなと感じております。
 昨年(2015年)11月には郡山市の「鯉に恋する郡山 鯉6次産業化プロジェクト・販売促進事業」にも、キリン絆プロジェクトは支援をさせていただいております。飲料メーカーであります私どもの会社としまして、ワインづくりという取り組みに、何かしらのご支援をさせていただき、逆に教えていただくなど、これからも何かしらご一緒させていただける機会もあろうかと思います。
 福島支社長を務めさせていただいております私も、実は郡山市生まれです。市役所にも知人がいます。故郷へ戻ってきて、縁浅からぬ皆様とお仕事ができることに誇りと喜びを感じております。
《主催者挨拶》
公益社団法人日本フィランソロピー協会 代表理事 髙橋 陽子
 一社だけ、一団体だけで何かを始めることが難しい時代と感じています。皆が手を携え合い、一緒になって色々な課題に臨んでいくことが大事です。今回のプロジェクトは、まさにそれを体現するものです。
 先ほどは、ブドウを栽培している圃場にもお邪魔をいたしまして、そして土の上を闊歩する農業者のお姿を見て、何てかっこいいんだろうと思いました。
 キリン絆プロジェクトでの支援は、人づくりということを中心に行っています。風評被害も未だ続く福島県です。たいへんな中で、故郷のためにと立ち上がり、新たな挑戦にがんばろうという気概と意気込みは素晴らしいと感じました。
 郡山は明治時代以降に拓かれていった新しいまちだと伺っております。未来に向かって、また新しい歴史を作り、伝えて行かなければいけないまちでもあります。郡山から新しいワインを生み出そうという新しいチャレンジが実を結び、全国のモデルケースとなってまいりますよう願っております。
 
《目録贈呈》
贈り手:キリンビールマーケティング株式会社 福島支社長 橋本 岩男
    公益社団法人日本フィランソロピー協会 代表理事 髙橋 陽子
 
受け手:郡山地域果実醸造研究会 会長 橋本 壽一 様
    郡山市長 品川 萬里 様
 
 
《受贈者代表挨拶》
郡山地域果実醸造研究会 会長 橋本 壽一 様
 このたびはキリン絆プロジェクト様よりありがたいご支援を賜り、まことにありがとうございました。必ずや郡山をブドウとワインの産地に育て上げ、近い将来、皆様方に、私どもが育て、創りあげたワインを楽しんでいただけるようがんばってまいります。今夏(2016年)、リオ五輪で活躍し、メダルを獲得した選手たちに負けぬよう、我々もゴールドメダルを目指します。
《激励の挨拶》
国立大学法人 福島大学経済経営学類 教授 小山 良太 様
 福島大学では『食・農教育プログラム』を4年間続けてまいりました。今回は3年後に最初のワインができあがる計画です。また3年後には福島市の本学に農学部が新設されます。
 郡山には農学実践センターの開設を構想として考えています。実践センターなのだから具体的な生産、商品開発に寄与する施設となるよう、そしてそれが県中央に置かれることは重要です。三菱商事復興支援財団様とは、すでに「福島地域論」という連携講座を開始しており、今後は農業に熱意のある学生を育ててまいります。
 私は、福島県にいちばん足りないものは「地消地産」だと感じていました。県産ワインが県内で広く楽しまれること、地元になかったものを地元で作ることは6次化を目指す上で、とても大きい契機になると考えます。
《激励の挨拶》
公益財団法人三菱商事復興支援財団 事業推進チームリーダー 中川 剛之 様
 私たちの財団では、福島県全域を対象に、再建を目指す事業者、あるいは起業する方の支援などを行っております。2年前には農業分野でもっと突っ込んで支援できないかと郡山市の農家を訪ね、「夢は何ですか」と質問させていただきました。そしてワインを作ることに決まって、本日また、農家の皆さんがキリン絆プロジェクトのご支援を受けられること、ほんとうに嬉しく感じています。
 ワイン用ブドウの栽培という未知の領域への挑戦です。できあがったブドウの一部か、あるいは全部かを、昨年オープンした私どもの「ふくしま逢瀬ワイナリー」でも取り扱わせていただき、皆様とともに金メダルを目指したいと思います。
《インタビュー点描》
郡山市長 品川 萬里 様
 ワインづくりの前に人づくり。手を挙げられた9軒の農業者の方の心意気に、敬意を表したいと思います。かつて安積開拓に参加したのも9つの藩でした。不思議な数字の符合ですね。
 また新たなチャレンジです。開拓2.0でしょうか(笑)。『七人の侍』ならぬ『九人の侍』たちがきっと素晴らしい成果を上げて下さるものと期待しています。
《インタビュー点描》
郡山市 農林部 演芸畜産振興課 課長補佐 箭内 勝則 様
 人を育てるとき、見えない部分でかかるコストは案外大きなものです。今回、それをご支援いただけることはほんとうにありがたく感謝しているところです。私は、実務の部分で農家の方々とマザーバインズ社さんを繋ぐという役割もありますし、キリンさんとの絆を深めていくというのも仕事です。
 産地を形成するということは、まさに行政がやらなければ行けないところです。現在は9軒の農家にご参加いただいていますが、この先、栽培面積も増えてまいりますので、志のある方にご参加いただけるよう、市といたしましても努めてまいりたいと考えています。
《インタビュー点描》
キリンビールマーケティング株式会社 福島支社長 橋本 岩男
 これまでのキリン絆プロジェクトの支援は、風評被害などで落ち込んでしまった既存の農業への復旧や復興のお手伝いでした。今回の支援は「郡山でブドウを育てて郡山でワインを造る」という、ゼロからスタートするプロジェクトへの支援です。とてもチャレンジャブルで、おもしろくなりそうな予感がしています。
 郡山は私の故郷でもありますし、郡山らしい名前を冠して販売していただけたら嬉しいです。ワインができあがるまでにはまだ数年かかりそうですが、できあがったら真っ先に飲んでみたい。当社にもワインはありますが、これは必ず買います(笑)。
《インタビュー点描》
郡山地域果実醸造研究会 会長 橋本 壽一 様
 目標は大きく、世界のコンクールで入賞できるようなワインを造ることです。そのためには生産者とワイナリーが車の両輪となって真っ直ぐに進んでいかなければなりません。我々はまず、いいブドウを造るための技術の向上を目指します。
 私はブドウづくりを43年間続けてきました。栽培の基本的なことは知っているつもりです。今後は人材の育成と雇用の体制をしっかり作って、栽培から醸造までの技術を数年で確かなものにして、その先の人たちが受け継ぐ。そこが今回のご支援の一番のポイントです。都会からやってくる新規就農者の受け入れ体制も今、整えつつあります。両手を広げて待っています。固定概念がない人の方がいいかもしれない。特に今回は新しいプロジェクトですからね。すべてをオープンにして若い人たちを応援します。
 
2016.08.24「郡山地域果実醸造研究会・郡山市/新たなワイン産地の人づくり 産学官連携人材育成事業方針発表」おわり

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