復興応援 キリン絆プロジェクト
「キリン絆 みちのくカンファレンス」
日時:平成30年(2018年)9月14日 14:30~19:00
会場:ウェスティンホテル仙台(仙台市青葉区)
平成30年9月14日、仙台市青葉区のウェスティンホテル仙台において「復興応援キリン絆プロジェクト」の支援を受けて、岩手、宮城、福島の3県で事業を展開するプロジェクト事業者が集う「キリン絆 みちのくカンファレンス」が開催された。
平成23年7月からスタートしたキリン絆プロジェクトは、農業支援では48案件、水産業支援では47案件について支援やフォローを実施。そうした中で、事業者の間からは「他のプロジェクトの事例や進捗の状況が知りたい」「販路拡大や人材の育成方法などについて意見交換がしたい」といった要望が寄せられてきた。
そこで、被災3県の90を超えるプロジェクト事業者が一堂に会し、それぞれの課題や現況を理解しあい、さらなるビジネス拡大や地域発展への契機にしようと企画されたのが、この日の「キリン絆 みちのくカンファレンス」である。
会場には県境はもちろん、農業と水産業という業種の垣根をも超えた多くの事業者・関係者が集まった。
「これからの時代が求める地域の食文化とは?」と題した基調講演、2団体による事例報告とパネルディスカッション、そして地域と業種を超えて編成された9つのグループが「販路開拓」「人材育成」「商品開発」「地域連携」の4つのテーマについて個別に議論するテーブルトークなどが行われた。
会場を移して開かれた懇親会では、それぞれのプロジェクトが開発した6次化商品や各地の食材をもとに、ホテル料理長が腕を振るった料理が多数並び、キリン絆プロジェクトという大きな枠組みでの経験を共有する参加者たちは、料理を味わいながら東北の一次産業の未来を語り合い、笑い合った。
そんな中からは、新たに結ばれていく絆や、さらなるコラボレーションの萌芽も感じられ、誰もが刺激的かつ有意義な時間を過ごして盛り上がった。
《主催者挨拶》
賛同人代表・北三陸ブランド化プロジェクト 株式会社ひろの屋 下苧坪 之典 様
2011年3月11日、私たちの住む地域は、地震、津波、原子力発電所の事故という未曽有の災害に見舞われました。ひどい状況の中から、それでも私たちは立ち上がりってまいりました。きょう、お集まりの皆さんは、キリン絆プロジェクトを通じて、自分たちの事業に新しい価値を作り上げ、それをさらに前へと進めていこうとしています。
私が起業した2010年ごろ、私の住む地域はすでに疲弊していました。人口減、地域産業の担い手不足、高齢化などといった問題が多くあったところへ、さらに震災が発生しました。
それでも私たちは10年先を見越して、今また事業を進めることができているのは、キリン絆プロジェクトの支援があったからこそです。
さらには、岩手・宮城・福島の3県が繋がることもでき、一つの目標を共有する仲間もできました。震災など無くてよかった出来事です。でも震災があったからこその出会いです。今、この出会いが次の発展へと進んでいくフェーズに入っていると感じています。
きょうは、支援を通じて築き上げた価値をさらに充実させるためのカンファレンスです。よい未来を、そして世界に通じるブランドをつくってまいりましょう。伝説の聖獣である「麒麟」の文字を冠したプロジェクトを通じてつくられたこの仲間が、これからの百年を、東北の未来を開いていくのだと確信しています。
《主催者挨拶》
キリン株式会社 CSV戦略部 部長 野村 隆治
東日本大震災から7年が経ちました。昨今、大きな被害をもたらす自然災害が続いていますが、地域のリーダーの方に力強く引っ張っていただき、復興を遂げて行っていただきたいと願っています。
私どものキリン絆プロジェクトは、皆さんと関係深い食文化というところで生産から食卓までという視点から支援させていただいてまいりました。中でも担い手づくり、リーダーの育成に焦点を当ててきました。本日のカンファレンスでは成功事例ばかりでなく失敗したことなども尋ねあいながら、今後のイノベーション、さらなる前進に向かって何かを感じ取っていただけたらと思います。きょうは農業と水産業の掛け算です。3エリアの掛け算でもあります。
私どものCSVとは共通価値の創造という意味です。事業にかかわる人が皆ウィンウィンになることが重要。これこそが永続的に社会課題に向き合っていける条件と考えます。事業価値に結びつくよう勧めていきたいと考えます。きょうのカンファレンスが皆さまにとって有意義な時間となりますよう期待しています。
《来賓挨拶》
宮城県副知事 河端 章好 様
宮城県とキリンビール株式会社様は双方の頭文字を採って「MKプロジェクト」を立ち上げ、地産地消の推進や県産食材のPR等に取り組んでまいりました。震災後も多岐にわたるご支援を賜り、被災3県の皆さまは着実に復興への道を歩んでおられます。
本日は、キリン絆プロジェクトで支援を受けられた3県の事業者の方が集まりました。地域への愛着と誇りを失わず、再生、復興、そして発展へと進んでこられた皆さまのご努力に敬意を表します。
県域や業種を超えて情報交換や意見交換が行われ、新たな結びつきが生まれ、東北の豊かな食資源に誇りをもって、皆さまがますます意欲的に事業に取り組まれてまいりますよう期待申し上げます。
《来賓挨拶》
JA全農みやぎ 県本部長 大友 良彦 様
キリンビール株式会社様には、キリン絆プロジェクトを通じ多大なご支援を賜り、特に震災直後には農業機械の導入支援をいただきました。県内にある約1万3000ヘクタールの被災農地はほぼ100パーセントが復興に着手し、99パーセントまで完成しています。たいへんなお力を頂戴しました。
さらには生産物の販売や加工にも継続的にご支援をいただいております。本日、こうして県域や分野・業種を超えて課題を話し合い、これからについて語り合う機会が得らたことはとても素晴らしいことと感じております。全農の復興計画も最終の場面に来ています。残された農地や沿岸部農業の復興にしっかりと取り組んでまいりたいと考えております。
《基調講演》
『これからの時代が求めている地域の食文化とは?』
株式会社umari 代表取締役 古田 秘馬 様
本日は、地域の食というものに関わり、携わってきたこの4年間を振り返りながら、これからにつながるヒントを探してまいりたいと思います。
私の会社は、明るい未来社会のための仕組みを作っていこうという会社です。政治経済といったことではなく、もっと身近な「関係」づくりを目指しています。
イノベーションとは、関係が変わることで生まれます。例えば通勤ラッシュは辛いけれど、イベント会場に向かう列車は満員でも楽しい。満員という状況に問題があるのではなく、向かっている先が問題です。通勤ラッシュの1時間前に会社へ行きたくなる場や仕組みをつくって朝の時間を変えようと、「丸の内朝大学」を開催しています。早朝、空いている会社の会議室を使ってみんなで情報交換を行う。学ぶ。知る。社会、地域、食などのほか宇宙や身体といった学部もあり、仕事以外のところで自分のスキルやネットワークを活かせる場です。
六本木農園というものもつくりました。都心のど真ん中に農園をつくってその生産物を料理して提供するお店で、いわば「農家のライブハウス」でした。生産者と消費者の関係を変え、農産物を売るのではなく農家の方と出会ってもらう場であり、きょう、会場に来られている方にも何人か来ていただきました。
震災の前から手掛けてきたこれらの事業を通じて私は、「モノのやり取りだけでなく、お互いを理解する。それによって関係を変えられるのではないか」と考えるようになりました。
大企業と地域の関係も変えられる。震災以降は大企業と地域が繋がることも増え、私がキリン絆プロジェクトで私が関わらせていただいた東北復興・農業トレーニングセンタープロジェクトでの経験をもっと広げていこうと、今、全国の食のプロデューサーと連携させていただいています。活動の原点は東北での経験です。
東京と同じことを地域が行うのではなく、地域のメンバーが面白いことを仕掛ける。自分たちのノウハウだけで解決できないことは協働で解決する。課題を解決する横のつながりです。マッチングだけでなく、同じ時間軸と世界観を共有して信頼関係を築くこと。それがトレーニングセンタープロジェクトなのです。
そして地域ならではの体験も作り出す。例えば、沖縄の離島へカヌーで行ってそこで飲むビールはきっとおいしい。モノではなくモノの裏側には地域の物語もあります。
逆に言えば、モノづくりは大企業だけではできない。地域にあるコンテンツをつくることも必要です。
トレーニングセンタープロジェクトの活動では、地域を訪ねていくことが楽しかった。生産者のもとを訪ね、風景を見て、なぜこの土地でこういう産品が作られているのかを理解する。風景そのものが食材なのです。地域には資産がたくさんあります。それを価値あるものに変える、どう変えるのかが大切です。
皆さんは地域商材の付加価値をつくることをされています。6次化ということで高付加価値のもの、最高のものをつくろうとされています。でも、具体的にどれだけ売れたのか、再生産できるのかというというところが大事です。どんなにおいしいニンジンができても、家庭の煮物で1本1,000円のニンジンは使いません。
でも、高付加価値ではなく多付加価値をつける。煮物のためのニンジンでなく、例えば朝鮮人参のように薬として使えたとしたらぐっと価値が上がります。違う価値をつけことも重要です。
きょうのテーマである『地域の食文化』を考えるとき、いいものをつくりたいということは重要です。でも、それがあるレベルに達したとき、次に出てくるものは『文化』です。ローカルフード・ツーリズムといって、地域の景色を楽しむだけでなく、食べものも楽しい、生産者にも会ってもらう。食を通した地域体験です。
私たちが今 地域でやろうとしていることはコミュニティの価値づくりです。グローバルな視点の数量や効率性をローカルに持ってきても当てはまりません。数は少なくても成り立つ。それがコミュニティです。どんな世界観を共有しているかが大事です。
地域ブランドの対象はこれまでは観光地とか特産品です。でもそれらは一過性のものです。これからの地域ブランドは、地域の取り組みそのものです。それが受け皿になり長期的なものになります。
もう一つは、新しいものを生み出す土壌が生まれるということ。みんながシリコンバレーを目指すのはそこに可能性があるからです。震災はたいへんな出来事でした。でも、新しいものがつくられる可能性もあります。ブランドとは可能性なのです。
それができれば継続性も生まれる。収益だけじゃなく再生し続けられるかです。どんな未来を見せることができるかが重要です。
さらにお伝えしたいのは、コンセプトとアイデアという二つの言葉の違いです。なぜそれを行うのかがコンセプト。どう行うのかがアイデア。多くの地域には、どちらか一方しかありません。なぜやるのか、なぜこの地域でやるのか、どうやってやるのか。コンセプトの上に地域ならではの条件があります。そしてアイデアがあります。
アイデアを進めていくうちに、ズレが生まれ、だんだん違うものになっていくこともあります。立ち戻るためにはコンセプトが大事。一つ目が当たっても二つ目が外れたりするのはコンセプトを忘れるからです。
現在では、SNSやインターネットを通じて、消費者が販売者に、販売者が消費者になる時代です。関係性が変わってきているのです。誰もが発信できる時代です。
ポイントは、コンセプトがプラットホームになり、誰もが参加できることです。シンプルであること。ミスマッチやギャップがあること。参加できること。写真を撮りたくなること。共感があること。そして、そこにビジョンがあること。これらが大事です。
そして、本気でやりたいという情熱と、商品や地域や自分がやっていることに対する愛情。本気でやらなければ実現しません。
時代が変わろうとしているとき、どこを見ればいいのか。一つのヒントは境界線です。ビジネスとプライベート、オフィスと自宅。地方と都市。どちらかではなく、両方のいいところを取り入れればいいのです。
これからの地域活性にコンセプトはとても重要です。コンセプトを実現するアイデアも重要です。それを誰がやるのか、挑戦できる、投資ができる仕組みも必要。そこに皆が参加できることも大事。そして新しい文化・社会を生み出す。皆さんがそれを直接できる時代です。
震災というものを経験した東北の皆さんは、何を伝えていくのか。いろいろな土地で災害が起きている今、先に困難を乗り越えた東北だからこそ、これをやるのだというところが本当の復興です。皆さんがそれを常に語って行き、広く伝播してこそ、またさまざまなことが始まっていくのだと感じています。
【パネルディスカッション】
キリン絆プロジェクトの支援を受けた団体を代表して、JA仙台とフィッシャーマン・ジャパンの二つの団体から事例発表が行われた。
JA仙台の小賀坂氏は仙大豆を用いた地域ブランディングと6次化プロジェクトを、フィッシャーマン・ジャパンの阿部氏は若手漁師による次世代の漁業づくりと後継者づくりプロジェクトをこれまで進めてきた。それぞれの事業内容や現在抱えている課題、これからの展望などについて発表を行い、それに対して古田氏が講評を行い、東北の食の可能性について考えるというパネルディスカッションである。
進行役は、キリンビール株式会社、公益財団法人日本財団、公益社団法人日本フィランソロピー協会とともにキリン絆プロジェクトを推進してきた一般社団法人RCFの藤沢烈氏が務めた。
一般社団法人RCF 藤沢 烈 様
本日のカンファレンスの大きな狙いは、皆さんが次のステージに向かうヒントと、新しい繋がりを結ぶことです。きょうはお二人の方に登壇いただき、取り組みについてご報告をいただき、皆さまに見ていただきたいと思います。古田様には、それぞれの取り組みをさらに進めていくためのヒントとなるコメントを頂戴したいと思います。
《事例紹介》
JA仙台 小賀坂 行也 様
私たちは宮城県の大豆を全国に広めて行きたいと考えています。作付け面積は全国第二位ですが、意外と知られていません。JAでは、震災復興だけでなく、新しいコンセプトで宮城県産大豆を多くの方に知っていただきたいと考えています。
ネーミングは仙台と大豆を両方思ってもらえるように「仙大豆」と名付けました。ターゲットはおみやげニーズです。駅や空港で置いてもらえるような商品を開発し、さらにこれら商品が根付いていくためにと、コンビニでの展開も考え、スナック菓子を開発しました。
もっと日常に入り込もうということで、大豆のヨーグルトも作り、首都圏や県内の量販店などに置いていただいています。
課題としましては、新しい売買契約を結ぶ難しさを感じています。また、スタッフの育成では商品に対する想いの共有、そして人材確保。アイテム数が増えたことによる在庫の管理や開発資金の確保も課題となっています。また、商品を開発しても必ずしも売れるかどうか分かりません。
これからの取り組みとしてはもっとプロモーションしていきたいということ。そして販路の拡大です。商談会にも積極的に参加して輸出も進めたいと考えています。
また、いろいろな企業とコラボしていきたい。きょうお集まりの事業者の方々とも新しい可能性を探していけたらと思っています。
古田 秘馬 氏
誰にとって「仙大豆」がなぜ必要なのかという議論が少ないのではないでしょうか?
相手(顧客)が何を知りたがっているか。仙台の大豆だということを知りたがっているのか。これは地域ブランドが陥りがちなところです。仙台だから、大豆だからということで心を動かされるのは、きっとそこじゃない。どんな商品をつくるべきかという思いや、仙大豆が世の中に知られることで何ができるのかということをポイントに考えられてはどうでしょうか?
《事例紹介》
一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン 阿部 勝太 様
地域課題をみんなで解決できる団体をつくろう。それが私たちのフィッシャーマン・ジャパン立ち上げの動機でした。
労働環境や販路といったいくつかの課題のほか、出てきたものは後継者問題でした。そこで、水産業の未来をつくる人を集めようと「トリトン」というプロジェクトを立ち上げました。
まず、首都圏で漁業に興味を持つ人や海が好きな人に来てもらおうと、自分たちで古民家を改装してシェアハウスをつくりました。最初は3名の方が来てくれ、やがてマスコミで報道されたり、漁協などからも声をかけられ、少しずつ規模が拡大。また、水産業に特化した求人サイトをつくり、マッチングフェアなどにも参加するうち、自分たちが思っていた以上に興味を示してくださる方が多くいました。県外からの応募が多く、これまでに200名以上の応募がありました。
そしてトリトンスクールという漁師学校に入学してもらい、次にトリトンセンターというところで地元の事業者とつないで雇用に結びつけます。2016年には4名、2017年には11名の方が就職という形で就労していただいています。また、トリトンキャンプという集いの場を設け、問題や課題を話し合う。就職させて終わりではなく、問題を解決して定住してもらうことにも力を入れています。
地元には「うちにも来てほしい」という声も多く、やがては漁場を譲ってもいいという高齢の漁師さんもいらっしゃいます。
今後は宮城県内全体に拡大して担い手を増やしていきたい。地元の若手や子どもたちにも興味を持ってもらいたいという思いから、宮城県水産高校との連携も始まっています。小学生のための漁師学校もつくったり、大学生とも繋がるなどして、より多くの人たちに水産業を知ってもらいたいと考えています。
古田 秘馬 氏
イタリアに「食科学大学」という学校があります。シェフ、生産者、流通業者、ありとあらゆる人が、食について360度の角度から学べるようにしようという学校です。
そこでは食に関わる業界全体の様々な人材を育成しているわけです。例えば、トリトンスクールでも地元の水産業のことを知ってから加工や流通の会社に入ってもらうなどすれば、業界全体を発展させることができるのではないかと、お話を聞いていて思いました。つまり職業を増やすということ。漁師にはなれないけれど漁師のことをよく知っている食堂の女将になりたいという人もいるかもしれない。業界全体を考えるとはそういうことだと思いました。
【テーブルトーク】
この日の参加者はテーマごとにテーブルを囲んで着席しており、基調講演の後は、テーブルごとに「商品開発」「販路拡大」「人材育成」「地域/企業連携」の4つのテーマについての議論を繰り広げた。農業、水産業、そして県域の枠を超えて、参加者がそれぞれ次の一手や、あるいは新しい連携の方法といった、課題を解決するヒントを一緒に考えようという趣旨である。
テーブルごと、それぞれの参加者が自己紹介を行い、携わっている事業の内容や課題、目標を語った。
次に、話し合う課題をピックアップして、その課題について具体的な内容を共有して解決策を探っていった。
そして解決に向けた行動として、ピックアップした課題についてまとめ、課題と解決案をアウトプットして、卓上に用意された模造紙に具体的に記した。
そのあと、司会者から指名を受けたグループは、登壇して、まとめられた内容を発表するという流れである。
初対面同士も多く、事業内容も目標もそれぞれ違う参加者たちだったが、一方では共通して抱えている課題なども多くあり、各テーブルでは、自分たちのこれからの事業展開に活かせる着想や新たなビジネスのヒントなどを求めて、活発な議論が交わされた。
《発表》
販路開拓チームから
私たちのテーブルでは、売価がコストに見合わない、高く買ってもらえないことがネックではないか? ということが話し合われました。
でもコストは下げられない。ならば高く買ってくれるところへ売ろうということで、売り先を選択する。一次産品の価値を認めていただく。そのためには一次産品の良さをストーリーとして共感していただけるための努力が私たちにも必要です。
例えば殻付きカキを開く体験をお客様にしてもらう、インフルエンサーに紹介するなどする。販路の拡大ばかりでなく売り先も選択するということでまとめました。
地域/企業連携チームから
水産業は水産業、農業は農業と、横の連携ができておらず、お互いの地元の産品もよくわからないという状況があります。我々がそれを把握できていないという指摘がありました。
次に、お互いの情報量が少ない。活動の内容も、強みも弱みも分からない。また、イベントなどで商品を扱ってもらっても一度だけで終わってしまう。継続性・持続性がありません。
解決に向けたアクションとしては、横に連携をして商品やパッケージの開発すること。交流会を開催して常にアウトプットして、それぞれの商材を持ち寄り、ディスカッションを行い、改善点なども指摘しあい、販路なども繋いでいこうという内容で整理しました。
人材育成チームから
採用から育成、中核人材、組織づくりという流れをつくり、企業の大きさも異なる中でも共通するとこは何かということを話し合いました。
フォーカスしたのは、育成から中核人材づくりという点。育成の課題は、技術者をどう育てるのか、担い手をどうつくるのか、将来の目標がしっかりあるのか、中途で辞めないで長く勤められるのか。また自分の時間は持てるのかといったことなどを話し合いました。
中核人材というところでは、この会社で何が学べ、成長できるのかを共通のビジョンとして持つことが大切と考えます。そして成功体験をつくって成長できる環境を整え、自分の考えを明確にできる人材をつくることが大事だということをチームの結論といたしました。
《講評》
古田 秘馬 様
こういった会で話し合ったことを、これからどう生かすかが大事です。今、この時は盛り上がるけれど、終わってしまうと続かない。
続けられる方法としては、「自分とは違う意見」をメモして後で見直すと、そこには自分の知らない世界が広がっていたりします。知らないことをどれだけ集められるか。トピックになるところを深掘りしていく。10分や20分でできることではありません。この後の懇親会の時間でも引き続き、掘り下げをしていただくと、そこから新しいヒントが出てくると考えます。
《中締め》
キリン株式会社CSV戦略部絆づくり推進室長 中沢 暢美
きょう集まった皆さまは、それぞれ仕事は違いますが、販路や人材育成といった課題は共通してお持ちかと存じます。自分と違う考えは、いくつものヒントになったのかなと思います。
きょうの「キリン絆 みちのくカンファレンス」は初めての試みでした。これまでの皆さまのチャレンジも、復興から次なる飛躍へ向けて進められています。進捗状況はそれぞれでも、大切なのは繋げていく、続けていくことです。熱い志が大切だと感じています。
きょうの体験が、皆さまのこれからに有意義な時間となればと願い、開催させていただきました。東北に関わらず、地域の基幹産業である第一次産業が持続的に繁栄することが地域の繁栄となり、誇りになっていくものと考えます。私どもの事業も、地域が元気であること、コミュニティが豊かで笑顔があふれているからこそ続けていけるのです。熱い気持ちを持ち続けてください。
さらなる飛躍をご祈念申し上げます。
《記念撮影》
キリン絆 みちのくカンファレンス
平成30年9月14日(金) 於:ウェスティンホテル仙台
【懇親会】
記念撮影の後は会場を移して懇親会が行われた。
テーブルには、各事業者がつくりあげた6次化商品や、参加者から提供された岩手・宮城・福島の食材をウェスティンホテル仙台の料理長がおいしく調理した料理が並べられた。
それぞれの地域の味覚に舌鼓を打ちながら、参加者たちは交流を続け、いくつもの談笑や議論の輪が会場に咲いた。
震災からの復興や再生、あるいは起業という困難を乗り越え、また、キリン絆プロジェクトの支援を受けてきた参加者たちの思いは、地域や事業の枠を超えて響き合った。
《挨拶》
キリンビール株式会社 仙台工場 工場長 横山 昌人
東日本大震災では、私どもの仙台工場も大きく被災しました。強い揺れで大きなタンクは倒れ、その後に押し寄せた津波では製品も流され、機械も海水に浸かりました。仙台工場は果たして再開・復興できるのだろうかと、社内でも議論が交わされました。
しかし、多くの方々からご支援をいただき、半年後には遠野産のホップを使ったビール「採れたて一番搾り」で再会することができました。
きょうは、皆さんはもう復興というレベルとは違う話をされていました。事業のこと、地域の課題のことを真剣に話し合われていました。東北だけじゃない、日本が抱える課題を皆さんは率先して、うねりをつくっていた一日だったと感じました。
課題はまだまだたくさんあると思いますが、今後も、新しいうねりをつくって、誇りをもって日本を引っ張っていってほしいと願っています。
《乾杯》
賛同人・気仙沼水産食品事業協同組合 株式会社八葉水産 清水 敏也 様
気仙沼、石巻をはじめとする宮城の港から宮城の水産業を盛り上げ、震災前よりも良くしていきたいと願っております。岩手、宮城、福島、それぞれに課題はありますが、お集りの皆さまがそれらを克服する努力を続けていけば、もっといい地域になっていくはずです。
このカンファレンスが来年も再来年も続きますように、そして皆さまのご健勝とご多幸、地域が良くなるような事業が続けていけることを願って乾杯したいと思います。
乾杯!
《閉会の辞》
キリンビール株式会社 東北統括本部長 杉山 和之
本日は、こんなに熱い思いを持った方が、こんなにたくさん集まってくださり、本当に感謝しております。キーワードとして横の繋がりということがありました。きょう一日を思い出すと、いろんな繋がりが増えているのかなと思います。
我々も、多くの方々と、多くのことで関わらせていただいておりますことを嬉しく思います。もともとキリングループは、地域のことやお客様のことを考えるというDNAを持っている企業です。キリンという社名は、中国の伝説に登場する聖獣・麒麟に由来しています。慶事、つまり慶びごとやめでたいことがあったときに現れるといわれています。世の中に喜びや幸せをどんどん広めていきたい。そんな思いが社名に込められています。
きょう、皆さんの間に新しい繋がりが広がっていく様子を拝見し、我々もまた皆さんと一緒に新しいチャレンジに取り組んでまいりたいと思いますし、地域社会の活性化と盛り上がり、お客様の喜びや笑顔に寄り添ってまいりたいと思っております。
思いを一つに、かつ盛り上げてまいりたいと思いますので、三本で締めたいと思います。
それでは皆さま、お手を拝借!
(三本締め)
ありがとうございました!
《インタビュー点描》
賛同人代表・北三陸ブランド化プロジェクト 株式会社ひろの屋 下苧坪之典 様
震災から7年半が過ぎて、どのプロジェクトも次のステージに進みつつあるのかなと感じました。それぞれの取り組みが、復興から次のフェーズである推進というところへシフトしていると思います。
私のところでは、キリン絆プロジェクトの支援をいただき、ブランドを立ち上げ、それをしっかりと推進してきた結果、お客様から認知いただけるようになりました。
これまでは一次産業の中でも横の繋がりはありませんでした。でも、きょうのカンファレンスは、同時多発的に立ち上がった大きくのプロジェクトを掛け合わせ、新たなイノベーションを想像していける場所になるのではないかと、その手ごたえも感じました。そして続けていくことで絆プロジェクトのもっと未来が見えてくるのでないかと思います。
《インタビュー点描》
賛同人・JA仙台 小賀坂 行也 様
皆さんが様々な課題をお持ちで、自分と同じだったり、あるいは違う意見の中に新たな気づきもありました。気づきとしては、まずは共感です。そして古田先生からはコンセプトに即した売り方、ブランドづくりについてご指摘をいただき、ディスカッションの中では、他の方もストーリーが大事だねといったお話もされていて、刺激を受け、改めてやっていかなければいけないことなども考えさせられました。
生産者の方が大事に育てた宮城県の大豆をもっとたくさんの方に知っていただきたいですし、新しい商品も開発して『仙大豆』に触れられる機会を増やしていきたいと思います。
《インタビュー点描》 平成30年9月21日
一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン 阿部 勝太 様
震災以降、誰もが無我夢中で走ってきました。そんなふうにがんばってきた人たち、他地域の皆さんのお話や事例を聞かせていただくと、もう一度、自分の中にもエネルギーが充填されてような気持ちです。モチベーションが上がってきましたし、こういう会はときどき行われるといいなと思いました。
他地域との連携といっても、なかなかすぐにできることではありません。でも、手を取り合っていくということはやりたいですし、やっていくことは必要だと感じています。
それぞれががんばることはこれからも変わりません。でも、それぞれのがんばりが加速度的に進んでいけるような連携が生まれてほしいし、自分も連携していきたいです。
もっといろんな方と情報交換もしたいですし、他地域へも足を運んでみたいなと思いました。きょうのような会も続けていきたいですね。
《インタビュー点描》
キリン株式会社執行役員CSV戦略部 部長 野村 隆治
このようなカンファレンスは初めての開催です。我々が支援させていただいた方々が、それ以上にがんばって発展していった結果、これほど多くの方が出席くださったのだと感じています。
皆さんは、これからもどんどん発展していって、地域を盛り上げるリーダーになってくれると思っています。これまでは、被災された皆さんが元に戻る、さらに少し上へ向かうところまでの支援でしたが、これからは我々と皆さんとが融合して、どんな未来をつくって行けるのか、どんなイノベーションを起こしていけるのか、考えていかなければいけないところです。
ここに来るまではいろいろな困難を乗り越えてこられました。次の第一歩はさらなる工夫と努力を合わせたイノベーションとなっていくことを期待しています。きょうの繋がりが強く結ばれれば、我々も気づかなかったものを皆さんがつくってくださるものと信じていますし、きょうのような集いが自然発生的に起きて、もっと大きな未来が開かれていくことを願っています。
《インタビュー点描》
株式会社umari 代表取締役 古田 秘馬 様
僕はプロジェクトの当初から関わらせていただいています。時とともに環境も課題も変わっていきますが、その中でも皆さんは前を向いて歩いていらっしゃる。これからも変わりゆく時間の中に次の可能性を感じることができたカンファレンスだったと思います。
こういうプロジェクトは走っている間は苦しいけれど、振り返ったときには、もうここまで来たんだと思うものです。その途中ではうまくいっているのか分からないこともある。でも、こういうふうに皆ががんばろうと思うことができる場は大事です。
そんな場を小さく開くこともできますが、時には大きくやることも重要。また、ちょうどいいコミュニティの距離感というのも大事なことで、心地いい人数を設定し、そして、どんな場でやるのか。それで時間の密度も変わってきます。
きょうがゴールではないし、すべてのことは意味があって起きています。災害が各地で起きている今、今度は皆さんが、支援された側から日本中を支援する側になっていく。皆さんの取り組みは、そのリーディングプロジェクトだと感じています。
2018.09.14「キリン絆 みちのくカンファレンス」おわり