機関誌『フィランソロピー』

機関誌2022年6月号 Page08-09
Date of Issue:2022.6.1
元気な社会の架け橋
難民のためにシェルターを提供
自立を支援し地域社会につなげる
NPO 法人アルペなんみんセンター
国内最大規模の難民のためのシェルター「アルペなんみんセンター」は、神奈川県鎌倉市の市街地を見下ろす高台にある。イエズス会日本殉教者修道院の建物を借りて、2020年4月に活動を開始した。迫害から逃れて来日した難民に衣食住や日本語を学ぶ機会などを提供しており、現在は難民認定申請中の12名が生活している。長年日本の難民支援に尽力し、現在は同センターの事務局長を務める有川憲治さんとプログラムコーディネーターの松浦由佳子さんに話を聞いた。
身一つで逃れてきた人々をホームレスにしないために
アルペなんみんセンター(以下アルペ)に滞在しているのは、難民認定申請中で「仮放免」という立場の人たちだ。命を守るために身一つで逃れてきた彼らは、公的・私的な支援が尽きれば、たちまち住む場所を失う。長年インドシナ難民やアフガニスタン難民の支援に取り組み、かつてカトリック東京国際センターの副所長を務めた有川さんは、彼らがホームレスにならないように何とかしたいとの一心で、2020年2月にアルペを設立。建物は無償貸与だが、運営資金のほとんどは全国からの寄付で賄っているという。立ち上げ時の職員は有川さん一人だったが、現在は、4人の住み込みを含めて9人のスタッフ、そして多くのボランティアがアルペを支えている。
【仮放免】身柄を拘束・収容されている外国人について、本人もしくは職権により、一定条件を付して一時的に収容を停止し身柄の拘束を解く措置のこと。申請するには、住居、保証人、保証金が必要になる。
有川憲治さん
有川憲治さん
仮放免中の難民認定申請者の中には、一時的に身を寄せ短期間で出ていく人もいるが、20年近く認定を待ち続けている人もいる。さまざまな境遇を持つ人たちが、法的にも、経済的にも、精神的にも不安定な状態に置かれている現実をより多くの人に知ってもらうこと、そして彼らが地域社会で自立することを目指して、有川さんたちスタッフは献身的な活動を続けている。
難民認定における日本の現状と国際基準との乖離
国連で採択された難民条約に基づき、戦争や内戦、政治的弾圧や人権侵害などを受け、国外に逃れた人は「難民」と認定されるのが国際基準である。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)が『難民認定ハンドブック』などを通して、認定について国際的な統一基準を設けているが、日本の認定基準は厳しく、認定率は1%に満たないのが現状だ。
松浦由佳子さん
松浦由佳子さん
現在アルペで生活するRさんは、20年以上仮放免の状態で難民認定を待っている。母国で政府要人の警備をしており、反政府勢力から命を狙われていた。しかし日本の場合は、本国政府から迫害されていることと、個別に把握されていることなどが条件のため、Rさんの認定は3回とも不認定となり、現在は裁判を起こしている。国際的な基準では、自国政府によって保護が得られないRさんのようなケースは、難民と認定される。
また、仮放免となっても就労は認められないため、アルペで自国の料理を作って皆に振る舞ったり、近所の子どもたちと敷地内の畑で野菜を育てるなど、地域の人びとと交流しながら暮らしている。
一方で、就労が認められる「特定活動」の在留資格を受けたMさんは、就職先が決まりアルペを退居することになった。Mさんは日本に留学経験があり、日本語が話せたため、地域の社会福祉協議会の紹介で、鎌倉の介護施設でお年寄りの話し相手をしながら介護の資格を取るために勉強し、介護職員初任者研修を無事修了した。スタッフ、ボランティアは、Mさんをこれからも見守り、励まし、そして支えていく。
【特定活動】ミャンマー人、アフガニスタン人は、一定の制限内で「特定活動」の在留許可が取得でき、就労が可能になった。ウクライナ人は入国直後から、「特定活動1年(就労可)」が認められている。
難民に対する扱いは、その国の人権感覚を測るバロメーター
アルペなんみんセンター
アルペなんみんセンター
アフガニスタンの復興に携わった経験のある松浦さんは、難民となって来日した少年から、母親探しを頼まれた。兄弟と父親は殺され、なけなしのお金を集めてなんとか自分だけを日本に送り出してくれたが、母親は国に残った。住所もわからなかったが、それでも何とかカブールで一人の女性を探し当てた松浦さん。確認のためにほかの子どもの写真も混ぜて見せた中から、母親は自分の子どもを発見し、体を震わせた。その表情を今も忘れられないという。
なんみん学習会
なんみん学習会の様子
「難民に対する扱いは、その国の人権感覚を測るバロメーターだと思います。日本はまだまだ改善すべき点があります」と有川さんは語る。有川さんの働きかけもあって、アルペを視察した鎌倉市議会は、国に難民政策の見直しを要請した。地方議会からの意見表明は画期的なことであり、この動きが全国に広がることを願っているという。難民を隣人として地域社会に受け入れてもらうこと、地域住民の協力で難民が働く機会を得て自立すること、こうした事例を一つひとつ積み重ねていくことが重要だ。
アルペでは、ウクライナからの避難民も受け入れ始めた。現在の活発なウクライナ支援が難民支援にも波及することで、日本における難民への理解度が高まることを期待している。「紛争で破壊されたアフガニスタンの復興の中心となったのは、ドイツ育ちのアフガニスタン難民たちです」と語る松浦さん。
厳しい境遇から逃れ日本に来た難民を温かく迎え、その人権を尊重し、地域社会との架け橋となる。そんなアルペの取り組みを広げるために、私たち一人ひとりにできることはもっとある。
機関誌『フィランソロピー』2022年6月号/元気な社会の架け橋から