公益社団法人日本フィランソロピー協会
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定例セミナー
 
第230回
開催終了
生物多様性基本法が成立し、福田康夫首相も、温室効果ガスの国内排出量取引制度について2008年秋にも試行的に実施すると表明。洞爺湖サミットを前に、環境問題への動きが活発になってきましたが、企業としてCSR経営の中でも、核となる環境経営に今後いかに取り組むべきかが問われてきています。CSR・SRIの第一人者として提言を続ける河口真理子さんに、覚悟ある環境経営のあり方について語っていただきます。
テーマ
進化する環境経営に向けて
~サステナブル・ファイナンスの動向を踏まえて~
日 時
2008年7月15日(火)15:00~17:00
※セミナー終了後、講師との懇親会がございます。
(希望者のみ、1時間ほどを予定)
講 師
河口 真理子(かわぐち・まりこ)氏
株式会社大和総研 経営戦略研究所 主任研究員
会 場
日本たばこ産業株式会社 JTアートホール アフィニス
東京都港区虎ノ門2-2-1 JTビル2階
<最寄駅>
・東京メトロ
 銀座線「虎ノ門駅」3番出口徒歩4分
 銀座線・南北線「溜池山王駅」9番出口徒歩5分
 日比谷線・千代田線・丸の内線「霞ヶ関駅」A13番出口徒歩7分
定 員
100名
参加費
一般:5,000円
会員:2,000円
学生:1,500円
※懇親会は、別途3,500円の実費(希望者のみ)
お問合せ
社団法人日本フィランソロピー協会
担当:加勢川佐記子(かせがわ・さきこ)
こちら のフォームをご利用ください。
 
開催報告
河口 真理子 氏
講演要旨
持続可能な社会構築にむけて金融がすべきこと
きょうは、環境経営ということを考える上で、その根本となる金融がどのように変化しているのか、金融の社会的責任とは何なのかということについてお話をしたいと思います。 ここ数年、「金融の社会的責任」ということが言われるようになってきました。2006年にPRI(責任投資原則)が策定された際に、アナン国連事務総長は、「いくら環境や社会に良いしくみを考えても、そこにお金がついてこなければ絵に書いた餅だ」という内容のメッセージを寄せています。つまり、金融が持つ社会への影響力が認識されるようになってきた今、「金融の本質的機能は、市場を通じて社会の資源を再配分すること。金融のあり方が社会を変え得る」ということを、投資家や金融機関はもっと考慮しなければならなくなったわけです。
 
意思のあるお金が社会を変える
私は、環境問題というのは市場の失敗であると考え、学生時代から環境に関わる勉強をしてきました。そしてわかったことは、技術や社会的システムだけでは環境問題を解決できないということです。そこにお金がついて初めて問題の解決が図れるようになるわけです。世の中をこう良くしたいというお金の所有者の意思があれば、社会を変えることができるのですが、「そんなことをすると儲からない」という人もいます。ならば「儲かるしくみを作れ」と私は言いたい。 近頃は、SRI の S の意味が進化してきています。以前は Social Responsibility Investment(社会的責任投資)と言われていましたが、最近は Sustainable の S に変わることによって、持続可能な社会への投資というより大きな概念となってきました。サステナブルという単語であれば、温暖化や貧困などグローバルな問題に関係するので、イデオロギーを離れた全人類にかかる問題として捉えることが出来るようになってきたのです。
 
「無意識のお金」が個人資産の4分の1
みなさんのお金は、見えない形で様々な事業に投融資されています。保険や年金準備金などの「無意識のお金」は個人金融資産の26%も占めています。この部分を意思のあるお金として活用していくことで、さきほど申し上げたような世の中を変えていく力になりうると私は思います。
そもそも SRI という考え方は、1920年代の教会の運用から始まりました。教会のお金なので、タバコや武器など宗教的・倫理的観点から問題のある企業は運用対象から除外されたのです。その後、児童労働や環境破壊など、様々な問題がこの SRI に反映されるようになり、現在アメリカでの運用規模は250~270兆円で、市場シェアの1割を占めるまでに成長しています。ヨーロッパは155兆円。 買っているのは9割以上が機関投資家で、その中でも年金基金が急速に伸びています。一方日本の市場では、個人投資家が多く、個人7,000億円と企業年金で1,000億円、足しても8,000億円で1兆円にもなりません。 欧米と比較して2桁も少ない状態です。1999年にエコファンドが初めての SRI として発売されて人気を集めましたが、その後の SRI の伸びはあまり芳しくありません。
 
欧米で拡大する SRI 市場
なぜ欧米でこれだけ SRI が増えているのでしょうか。ひとつには、法律やガイドラインが増えていることがあります。英国では2000年に年金基金に関して様々な制約を設け、ゆるやかに SRI へ誘導するようにしました。フランスでは、2005年に退職年金を SRI で運用することが決まり、北欧諸国など他国に広がっています。
こうした動きの中で、SRI の主要なプレーヤーがあつまって2006年には「責任投資原則」(PRI)が策定されて、SRI というのは倫理でやるのではなく、ESG、 Environment, Social and Governance という新たな投資コードでやろうという認識を投資家が持つようになったわけです。もうひとつ SRI 拡大の背景として、新たな消費者層の出現もあります。
アメリカでは、環境や社会的正義に関心の高いロハス層といわれる人が増加し、この人たちが SRI を買っている。また企業年金加入者の7割が、年金の運用先として SRI を選択している。これは、長期的投資をするには SRI という考えが個人にも浸透しているためといえるでしょう。
 
CSR に取り組む企業はパフォーマンスも好成績
CSRは、企業価値に現実的な影響があるということが言われるようになってきました。SRI でも企業を財務データだけでなくホリスティック(Holistic/全体的)に評価するようになり、CSR や ESG という観点で銘柄を選ぶと、プラスになる可能性の方が高いという見方も出ています。
環境報告書を開示している企業が TOPIX に対してどれくらいパフォーマンスが上回ったか調べたところ、2年間で8%上回ったという報告があります。また、ファミリーフレンドリー表彰を受けた銘柄について、表彰後60か月のパフォーマンスを調べると、これも TOPIX を35%も上回っているということも分かりました。
では次に「株主責任」という視点について見てみましょう。現在では、企業の従業員であっても、年金に加入していれば「株主」であり、会社から一歩出れば「消費者」となります。こうなってくると、株主としての自分だけ儲かるというのはありえない。20年後にいくら高いリターンを上げたとしても、環境が悪化するなど、社会が無茶苦茶なっていたとしたら意味がないわけです。株主の視点だけでなく、従業員、消費者、生活者の視点でみて望ましい社会になっていないと、結局ダメなわけです。
「責任投資原則(PRI)」という考え方は、こうした流れの中で出てきました。PRIには、2008年6月現在381機関が署名しています。このうち日本の機関は、まだ13しかありません。PRIの前文には、「受託者としての役割を果たす上で、環境の問題、社会の問題及び企業統治の問題(ESG問題)が運用ポートフォリオのパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があると考えている」という文がありますが、これはこれまでの SRI の歴史から見ると画期的な宣言です。つまり今後は受託者が、受益者のリターンだけでなく、ESG に考慮した運用を「やらなければいけない」という状況になってきたのです。この PRI には、規模が大きくて長期的視野での運用が求められる各国の公的年金が非常に熱心です。これに対して日本の年金基金の動向というのは、「SRI を組み入れている」年金が6.9%。「検討中」が24.5%ありますが、「組み入れていなくて、今後も予定がない、が62.2%という愕然とするような状況です。
 
日本人に欠けている「金融哲学」
なぜこんなに差があるのでしょうか。私は根本の「金融哲学」が違うのではないかと考えています。
日本では最近、金融庁や金融機関が金融の知識を与える教育に取り組んでいますが、これは金融の「しくみ」を教えているのがほとんどではないでしょうか。これも重要ではありますが、英米では、まず「金融哲学」を教えるそうです。金融、すなわち自分の運用のためにお金を動かせばそれは必ず社会的影響を伴うものだということを、子どものころに叩き込む。そういう考え方を理解した上で、しくみを教える。
日本においては、この「お金が社会に影響を与える」という発想がないために、「余計なことはせずに運用に専念しろ」、すなわち、運用は運用だけで完結するべきで、それが社会に与える影響を考慮する必要はないとしか言われない。金融の本質とは何なのか、誰も考えていないのです。
株主責任の話に戻りますと、欧米では株主が合同で設立した機関が証券会社の調査レポートを評価したり、機関投資家が率先して気候変動問題への取り組みのアンケートを行なったりなど、金融の社会的責任を果たすための様々なアクションを起こしています。このような投資家からの要望に応えて、企業経営者側も、昨年秋にバリコミュニケという気候変動対策への共同宣言を発表して世界中から150もの企業が署名しました。日本からはソニーエリクソンモバイルを日本企業とすればこれ1社のみ。日本の企業は何をしているのかなと思ってしまいます。しかしそんな中、日本でも「市民意識の向上」という変化の兆しはあります。例えば東京都や中野区、横浜市などで自然エネルギーへの投資のしくみが出来て、市民がどんどん出資している。
また政策の面でも、自民党が「低炭素社会形成推進基本法」案を準備して、日本版PRI確立を目指したり、地球温暖化問題に関する懇談会提言がこの(2008年)6月に出されるなどの動きがありました。年金の SRI 運用も、公務員年金基金などが率先してやるようになれば一気に広がる可能性があるのではないかと思います。
 
社会的責任投資が当たり前になる日
CSR報告書の第三者評価を頼まれたり、ステークホルダーダイアローグに呼ばれることも多いのですが、その企業のビジョンや取り組みの報告についてもっと書いて欲しいですね。結果がまだ出ていない環境への取り組みでも、現在ここまでやっているということを報告書で書いておけば、それが戦略にもつながり、結果的に投資家にアピールできると思います。
「SRIからIへ」、これは、将来すべての投資が社会的責任投資になれば、単なる「I」だけになって、誰も SRI なんて言わなくなるだろうという私からのメッセージです。
定例セミナーとは・・・
8月の除く毎月、フィランソロピーに関心のある企業、個人、NPO・NGO、研究者などさまざまな方々にご参加いただいています。フィランソロピーに関する幅広い分野から毎回テーマを吟味し、楽しみながら社会貢献の理解促進・活動ノウハウを得る機会としていただいております。イベントや交流会では、講師・さまざまな参加者とのネットワークを広げることができ好評です。 みなさまお誘い合わせの上、奮ってご参加ください。
<2008年度 幹事企業ご紹介>
本セミナーは、当協会を事務局とした企業幹事制を採り、年間テーマに沿って幹事の皆さまに企画・運営をお手伝いいただいています。
 
三和ホールディングス株式会社
大同生命保険株式会社
日本アムウェイ合同会社