◆青少年フィランソロピスト賞
< 文部科学大臣賞 >
いかだち
大津市立伊香立中学校 (滋賀県大津市)
同校は大津市北部の山間地域にある生徒数46名の小規模校。特色ある学校づくりの一環で、2011年に淡水魚の飼育・繁殖を行うアクアリウム部を創設。校内にミニ水族館を設け無料で開放するなど地域内外の人たちに親しまれている。創部が東日本大震災直後であることから、「社会の役に立つ活動」を部の方針として掲げ、当時の部員たちが「被災した同年代の人たちの力になりたい」と、「メダカ募金」を構想。地域のイベントなどで募金活動をするほか、繁殖させたメダカを販売し売上金を寄付に充てるなどして、これまでに約60万円を、震災遺児を支援する「あしなが育英会」におくっている。
メダカの繁殖は、思うような数が育たないこともあるが、近頃は過去に同部からメダカを買い、自宅で繁殖させて寄贈する人も現れた。地域内外から珍しい魚や水槽の寄贈もあり、「メダカ」でつながるボランティアの輪が広がっている。昨年、仙台市内に震災遺児のケア施設「東北レインボーハウス」が完成した折には、保護者らがカンパを募って旅費を調達。全校生徒の被災地訪問が実現。活動への意欲はますます高まり、部員たちの「誇り」につながっている。
「被災地のために役立ちたい」という思いをつなぎ一丸となって活動を続ける行動力、主体性を伸ばす教員の力、子どもを支える地域の力に敬意を表し、「文部科学大臣賞」として称えたい。
< 奨励賞 >
すずき ともや
鈴木 智也 様 (島根県津和野町)
鈴木智也さんは2002年生まれの中学3年生。東日本大震災をきっかけに、2013年、茨城県つくば市から、人口300人の自然が豊かな島根県津和野町に移住。左鐙(さぶみ)小学校に転校した。
以前は全校児童600人の小学校に通い、引っ込み思案で会話が苦手だったが、全校児童7名の左鐙小学校では授業で先生から一日に何十回も指されるうちに積極的になった。また、地元の人が先生役になる自然体験を通じて、左鐙は「ふるさと」になった。
そうした中で左鐙小学校に、廃校計画が持ち上がった。基準とする児童数を満たしていないためだが、智也さんは自分にとって特別な学校をなんとか残したいという思いで、できることを考えた。地元の町議会議員や大人たちの助言もあり、母校を残すため、家族での移住を促そうと子育て世帯向けに空き家を改修する費用をクラウドファンディングで集めることを決めた。先頭に立ってアピールし、結果として706万円が集まった。これをもとに2棟の改修工事を行い、子育て世帯の移住につながった。廃校は決定したが、智也さんの活動に刺激を受け、大人たちも地域の過疎化対策に取り組んでいる。
今も「自分のためじゃなく社会のために働けるひとになりたい」と将来の夢に向かって、目を輝かせる。智也さんの積極的かつ前向きな姿勢にエールを送り、「奨励賞」を贈呈したい。
< 奨励賞 >
おぎ とがわ
小城市立砥川小学校 (佐賀県小城市)
同校は全学年単学級で児童数145名の小規模校。小城市牛津町砥川地区は、戦国から江戸時代にかけて、石垣づくりや護岸工事などで活躍した「肥前石工集団」が住んでいた。今も石工たちが作った菩薩や如来などが200体以上残っており、「うしづ石工の里」としてウォーキングコースが整備されている。
同校では、こうした郷土の歴史と伝統を知るため4年生が「総合的な学習の時間」の中で、学習を続けてきたが、2002年に地元の文化団体「石工の里を未来に伝える会」が発足したのを機に、同団体と連携した授業づくりに取り組んでいる。活動は同団体の案内で石仏を巡った後、石仏をモチーフに版画カレンダーを作成、地域のイベントで募金を呼びかけ、協力した市民にお礼としてプレゼントする。募金は「石工の里を未来に伝える会」におくる。その累計は70万円に及び、石像を保護する屋根の補修やウォーキングコースの手擦り設置などに活用されている。一連の活動は「そのままにしていては、石仏はいずれ朽ちてしまう。石工の里は故郷の自慢。守っていきたい」という児童の心を育てている。子どもたちの懸命な姿を通して、保護者や地域住民もカレンダー作成や募金に協力する。地域一丸となって歴史と伝統を守る好例であり、子ども、教員、地域住民の信頼を育む地道な努力に敬意を表し、奨励賞を贈るものである。
< 奨励賞 >
せいじょう
学校法人成城学校 成城中学校・高等学校 (東京都新宿区)
同校は、陸軍士官学校・幼年学校への予備教育を施す教育機関のとしての役割を果たしてきた男子校。「社会に有為な人材を育成する」精神を創立以来受け継いでいる。
同校生徒会は中学・高校の各学年各クラスから選出された2~4名で構成、約100名が所属する大所帯で、学校生活を充実させ生徒と社会の関わりを作るさまざまな活動を行っている。とりわけ、60年前に在籍した生徒が、被曝が原因の白血病で亡くなったことをきっかけに始まった「核兵器廃絶のための署名運動」は、当時の生徒が作ったドキュメンタリーフィルムとともに、今も受け継がれている。生徒会を中心に、全校生徒や保護者、文化祭来場者に協力を求めている。生徒一人ひとりが用紙を持ち帰り、署名の趣旨を説明して一筆一筆集めている。
また、身近な社会課題に目を向けようと毎年春と秋に開催される「あしなが学生募金」に参加。土日を中心に、街頭に立って交通事故等で保護者を失った遺児奨学金支援を呼び掛け、2011年からの募金総額は800万円を超える。署名運動を通して、社会に対して自分たちができることがある、ということを学び、募金活動でもその力をいかんなく発揮している。
生徒の真摯でひたむきな姿勢に敬意を表し、その更なる発展を期待して奨励賞を贈るものである。